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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)557号 判決

理由

一審被告熊沢が、一審原告に対し、訴外久我節三振出にかかる本件(イ)の手形を裏書し、一審原告が(イ)の手形をその主張の通り呈示したところ、支払を拒絶されたことは、当事者間に争がない。

本件(イ)の手形金一三九、〇〇〇円の請求について。

(一)、一審原告が、(イ)の手形裏書人たる一審被告熊沢に対し、呈示期間経過後の呈示をしたため、これを目的とする第一次請求が失当であることについて(省略)

(二)、よつて、(イ)の手形金についての予備的請求について判断する。

手形法第八五条が、手形所持人の利得償還請求権を認めた所以のものは、同法が手形関係を迅速に解決させるため、手形所持人に厳格な手続と迅速な権利行使を命じ、これを怠つた所持人に対して手形上の権利を消滅させることとした反面、右権利消滅によつて手形上の債務を免がれた手形債務者をして利得を許すことが衝平の観念に反するところからこのような場合に右手形上の権利消滅によつて現実に利得した手形債務者をしてその利得を返還させ、もつて所持人と利得者との利害の均衡を図ろうとしたものであるから、所持人が手形上の権利を失つた場合においても、手形の原因関係による請求権を行使し得る場合や、或手形債務者に対して手形上の権利を失つたときでも、他の手形債務者に対して手形上の権利を行使し得る場合(但し、他の手形債務者が無資力で、これに対して手形上の権利を行使しても、実際上権利の実現が不可能である場合を除く。)においては、所持人に対し利得償還請求権を認める理由がない。

これを本件(イ)の手形についてみるに、一審原告が、既に振出人たる訴外久我節三に対する右手形金請求訴訟において一審原告勝訴の確定判決を得ている(同訴外人が無資力であることについて、一審原告はなんらの主張立証をしない)のみならず、右手形が一審被告熊沢に対する貸金支払のため裏書を受けたものであることは、一審原告の主張自体から認められるところであるから、一審原告が(イ)の手形の上の権利消滅により現実に右被告が利得しているかどうかの点について判断するまでもなく、一審原告の右予備的請求は理由がない。

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